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In recent times, local cultures and attractions have been rediscovered and appreciated anew. Shizuoka, rich in cultural assets like food and art, holds unique potential.
"22MAGAZINE," named after Shizuoka's prefectural number, aims to curate and highlight lesser-known spots and people, naturally uncovering the region's latent potential. The team's local presence ensures high sensitivity and meticulous communication.

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FEATURE

Stronger Than Ever 「手しごと」を届け、人と人を繋ぐ。町工場が立ち上げたカフェレストラン 24PILLARS

愛知県名古屋市の金山(かなやま)。名古屋駅からJR線で4分ほどと好立地ではあるが、のどかな住宅街が広がる落ち着いた地域。そんな町の新たなスポットとして人気を博しているのが、カフェレストラン、ギャラリー、そして家具工場の機能を併せ持つ[24PILLARS]だ。自然派ワインやクラフトビールをカジュアルに楽しむことができる一方で、ギャラリースペースにはユニークな形の椅子や什器が並び、さらにその奥の作業場では職人たちが作業を行っている。そんな「町工場×カフェレストラン」という異色の組み合わせができるまでの経緯を掘り下げるべく、「トヨピー」の愛称で親しまれている社長の勝崎 慈洋(よしひろ)さんと、家具の営業担当であり、飲食部門やイベントのディレクションを担当している磯村 知希(ともき)さんにお話を伺った。天井が高く、大きな窓から自然光が柔らかく差し込むなか、店名の由来でもある24本の柱(Pillar)が等間隔にそびえ立ち、神聖さすら感じる空間……を抜けて、取材は声が聞こえやすいバックヤードで始まった。

波乱万丈、紆余曲折!オーダーメイド家具工場[Dala mokko]ができるまで。

◇まずはお二人が出会った頃から、また再会して同じ会社で働くようになるまでのお話について教えていただけますか?

トヨピー : 出会いはレコード屋です。私は大学生の時に金山駅前にあった[GROOVE!]というレコード屋でバイトしてて、大学を卒業した後はそのまま社員として入って。でも、同じく金山にある本店で働けると思って社員になったのに、社員になった途端、名古屋のはずれにできた新しい店舗にばされたんです(笑) 。そしたらそこに高校卒業したての磯村が入ってきたんです。私より4つか5つ年下なのに頭が良くてキレ者で。あまりの賢さに驚いて、思わず敬語で接していました(笑)。

磯村: いやいや全然そんなことないすよ(笑)。

◇レコードショップで一緒に働かれていたのは何年くらいですか?

磯村 : 2、3年くらいかな?そこからはほぼ会ってなかったよね。

トヨピー : 私はレコード屋を辞めてから家具職人を目指して家具業界に入りました。というのも、家具職人という仕事に対して憧れがあって。作家さんみたいな、かっこいいアトリエで作務衣(さむえ)を着て、2,3時間働いてっていうイメージだったんです(笑)。そういうキラキラしたイメージだったんですけど、入ってみるとほんとただの普通の町工場なんですよ。汚いし、危ないし、工員さんの口も悪くてね。そういうのがほんとに嫌で、すぐにそこから逃げ出そうとしたわけです。そこで社長に「辞める」と伝えると、「営業をやってみないか」という話になって。営業に移って7年やったあと、自分で独立しました。

◇独立のきっかけはなんだったんでしょう?

トヨピー : 7年勤めた会社がもうすぐ潰れるということになって。潰れるんだったら、その前に自分で会社をやろうと思って。もとの会社で一緒に働いていた職人さんと4人でオーダーメイドの家具の木工所[Dala mokko(ダラモッコ)]を立ち上げました。

◇新しく会社を立ち上げるとなると、クライアントとのつながりも一からになって大変ではなかったですか?

トヨピー:いや、ありがたいことに潰れた会社のお客さんがそのままついてくれたんです。お客さんたちからすれば、今まで家具の製造を頼んでた工場がなくなると、家具が作れなくて困るわけですよね。なので、なんの苦労もなくそれまでのお客さんとやり取りをさせていただくことができました。

◇そこから木工所が拡大して行ったけど、一度火事で全焼したこともあるとか……。

トヨピー : そうですね。クリスマスの日に社員みんなでお昼に行っている間に燃えてしまって。火の元はうちの工場ではなかった可能性が高いんですけどね……。でもそのおかげでその後、港区新茶屋のちょっと大きい工場(現在の本社)に移れたので良い面もありますね。ただ借金は3倍くらいに膨れ上がりましたけどね!まだ今も返済中です。

◇良くも悪くも心機一転というか、環境が変わったわけですね。

トヨピー : ただ、移った先に事務所がなかったので、コンテナハウスを事務所にしようとしたんですけど、普通のコンテナハウスだとありきたりだから、エアストリームを買って事務所にしたんですよ。しばらくはそこでやってたんですけど、そこに7,8人くらいがぎゅうぎゅうに詰まって仕事するから狭くてね。しかもエアコンも効かない状態ですし、夏なんかは体臭も気になる。後ろを通る時とかもピタって接触して、「うわ!」って気持ち悪かったりね(笑)。それで広いところに行きたいなって思って、改めて近くに事務所を借りました。

会社略歴 (Dala mokko HPより参照)

2009年      飛鳥村で有志4人で設立

2011年12月24日   名古屋市港区新茶屋2丁目(現在の本社工場)に訳あり移転

2012年      エアストリーム事務所設置

2016年      エアストリームの中におっさん8人に発狂して5丁目に支店を購入

2022年5月      金山に工場、ギャラリー、カフェの機能を兼ね備えた[24PILLARS]オープン

◇磯村さんは、Dala mokkoに入る前はラジオやテレビの制作会社で働かれていたとうかがいました。どんなことをされていたんですか?

磯村 : そうですね。はじめはラジオの制作会社に就職しました。いわゆるラジオ番組を作る仕事ですね。パーソナリティが話す内容を考えて、台本を書いて、曲も選んで……。基本的には全部やってました。そこから働いてたラジオ局がなくなったんですが、そのタイミングでテレビの制作会社の社長から「うちでやってみないか」と言われてそっちに移りました。テレビはテレビでほんとになんでもやる感じでした。台本書いて、ロケ行って、編集して、納品して。

トヨピー : テレビの制作なんかは、段取りとかすごい大変じゃないですか。関わる人も多いし。でも「磯村なら、そりゃできるよな」と思いました。レコード屋で働いてた頃から、何をやらせても仕事ができるなっていう人でしたからね。で、テレビの制作の仕事を辞めたと聞いたから、じゃあちょっとうちに来てくれないかなと思って連絡しました。業界が違うとはいえ、家具の仕事も結局現場の段取りなんですよね。だからディレクター的な仕事はすごく生きると思って。無理やり巻き込んで会社に入ってもらいました。

◇磯村さんはその話がきた時はどう思いましたか?

磯村 : あんまり覚えてないな(笑)。まあでも仕事を辞めた後でやることもないし、やってみようかなという感じでした。

◇違う業界というか環境での仕事になるわけですが、抵抗はなかったですか?

磯村 : そうですね。まあ環境の変化でいえば、ラジオとテレビでも全然違いましたしね。でも仕事の内容的には制作の仕事も家具の営業も似ている部分は多かったです。いろんなことを取りまとめてディレクションすることはどれも一緒ですからね。

トヨピー : 今、うちには家具の営業さんが11人いるんですけど、磯村が成績ナンバーワンです。仕事はできるんですよ。ただ遊び方が派手なもんだから、「あいつは仕事してない」っていうイメージが社内で強いんです。

全員 : (笑)。

◇[Dala mokko]は、オーダーメイド家具の製造を専門にされているということなんですが、家具の営業とは具体的にどんなことをするんですか?

磯村 : だいたいの場合は、まず「家具を作って欲しい」という依頼の連絡が社長(トヨピー)のところに来て、社長が担当の営業を決めます。僕ら営業は依頼主と打ち合わせをするんですけど、よくあるのは依頼主が設計士の場合です。設計士さんも作りたい家具の形があるものの、家具の細かいことを分かってる人ばかりじゃないから、その人が作りたいイメージが実現できるようにこちら(営業)もある程度提案をしたりします。で、現場に行って寸法を測って、可能かどうかを見定める。それをうちの職人さんに依頼をして作ってもらう。できたものをまた現場に持って行って取り付ける。

◇最初の打ち合わせから最後の納品までの、まさに“段取り”の管理を行うんですね。

トヨピー : オーダーメイドでサンプルがないからこそ、注文したお客様自身も明確なイメージがある人って少ないんですね。ただ、完成したものをお見せした時に「こんなイメージじゃなかった!」って言われたら終わりなんですよ(笑)。だからなるべくお客様のイメージと、実際に作っていく家具のギャップがないようにやっていくのが営業の腕の見せどころですね。

簡易のドリンクバーの未来もあった!?高架下の巨大空間[24PILLARS]

◇本社や事務所が既にある状態で、金山に[24PILLARS]をオープンしたきっかけは何だったんでしょう?またなんといっても、木工所とカフェレストランが併設されている理由も気になります。

トヨピー : まず、ある職人さんが「木工教室をやりたい」と言ったのがきっかけでした。そこで一般の方向けに木工のワークショップができるような空間を探すなかで、このJRの高架下を見つけたんです。ただ、話を持ちかけた時に、JRさん側から「倉庫と工場だけのテナントには貸したくない」という要望があって。

磯村 : この高架下の並びはけっこういろんな会社が借りてるんですけど、倉庫として使っているところが多いんです。使われてはいるけど、基本的にはずっとシャッター閉まってるような。それに対して―最近、全国的にも言われていますが ― JRは高架下の再開発を進めたいみたいで。「倉庫と工場だけの形態じゃなければ借せます」という話になったんですね。

トヨピー : その話を受けて、私は「じゃあセルフのドリンクバーでも置いて“カフェ”と謳おうか」くらいのつもりでいたんですけど、そこは磯村さんが「待った」をかけて、自然派ワインとかクラフトビール、それからガレット、クレープといったフードメニューを楽しめるカフェレストランの形にしてくれました。昔から食通だったしね。

磯村 : ただ食いしん坊なだけっすよ(笑)。

◇簡易的な飲食スペースではなく、メニューや空間作りにこだわろうと思ったのは、磯村さんが好きなお酒や料理を、[24PILLARS]を通して表現したいという思いからだったんでしょうか?

磯村:いや、「好きなものをやりたい」っていうよりも、まず間口を広げて、この会社のことを知ってほしいと思ったんです。やっぱりうちの会社は町工場、いわば下請けの会社だからやっぱり設計士や内装屋さんからしか仕事が来なかったんですよ。そういうBtoB(「Business to Buisiness」=会社同士の取引)からBtoC(「Business to Customer」=会社と一般消費者間の取引)にしたい。そういう意味で、飲食もしっかり運営できれば、利用する人が増えて結果的により多くの人に知られて、結果的に家具の依頼も増えるかもしれない。それもあって飲食にも力を入れたいと考えました。

◇[24PILLARS]に提供されている自然派ワインも磯村さんのセレクトとうかがいました。ワインについての知見はどのように深められたんですか?好きになったきっかけも含めお聞きしたいです。

磯村 : 好きで飲んでるだけですけどね(笑)。正直きっかけっていう感じもなくて。今から18年くらい前、僕がまだラジオの仕事してた頃に名古屋に自然派ワインのショップができたんです。おしゃれな感じのお店を偶然見つけて入ってみたらワインショップで。ワインのことはよく分かってなかったけど、お店の人が自然派ワインについて教えてくれて。当時は「ふーん」ってくらいでしたけどね。その店員さんに「ワイン会とかあるからよかったら来て」って誘われて飲み始めたのがきっかけかな。そこからダラダラ長い間飲んでただけで、「知見」っていうほどじゃないっすよ(笑)。

◇とはいえ長年親しまれてきたわけですね。[24PILLARS]で自然派ワインやクラフトビールを置こうと思ったのはどうしてですか?

磯村 : それは作り手が分かるものが多いからです。インポーター(海外からワインを輸入・販売する人)からの資料には、ワインの生産者や産地のことも細かく書かれているんですけど、そういう風に「どこで・誰が・どのように作ってるか」が分かる物だけを扱いたいなと思っていて。クラフトビールに関しても、基本的には知り合いが作ってる銘柄しか扱っていない。これは、うちがオーダーメイドの木工所であることともつながっています。家具屋さんにもいろんなタイプがあって。最新の機械を積極的に取り入れているところもあるんですが、うちの場合は真逆なんですよ。あえて古くて癖のある機械を職人さんたちが使いこなして、昔ながらの方法で家具を作っている。そうやってできた家具には、クラフトならではの「手しごと感」だったり「作り手の存在感」が生まれます。それはこの会社のテーマなんですね。だから木工以外の飲食やギャラリーでのワークショップでも、「作り手が分かる」ことをやりたいんです。

◇全てつながっているんですね。素敵です。

磯村 : ただ「手しごと」とか「クラフト」とか言い過ぎるとかっこ悪いからあんまり言わないようにしてますけどね(笑)。「そういうことも大事じゃん」くらいでいたいです。

◇それと[24PILLARS]のフードの看板メニューとしてガレットがあげられますが、そういったメニューの選定も磯村さんが行われたんですか?

磯村 : いろいろ話すとあるんだけど、知り合いの料理人が「ガレットをやりたいけど、自分の店があるからできないんだよね」と話してるのを聞いて「ガレットって良いな」と思ったのがきっかけです。流行り廃りもないし、まだ他でやってるところも少ないし。やれそうな人を探してみると、若くて暇してるシェフがいたんです。そのシェフはフレンチはできるけどガレットはやったことなかったので、ガレットが有名で僕も好きなお店に連れて行って、そこで修業させてもらって。

スモークサーモンのガレット
スモークサーモンのガレット

◇2つの異なる業種を並行して運営していくことは相当大変なことだと思います。両者にかける時間の割合はどれくらいなんでしょう?

トヨピー  : (しばらく考えたあと)あんま考えたことないですね(笑)。

磯村 : 僕はメインは家具の営業の方ですしね。

トヨピー : かける時間や手間としては1/3くらいがカフェかなって思うんですけど、会社としての売上の比率でいうとやはり家具の方がメインになってきます。「そんなにカフェやイベントのことで時間取ってちゃいけないのにな」って思うんですけど、純粋に楽しいんですよ(笑)。でもほんとにこの金山の[24PILLARS]は磯村さんがいて良かったと思います。いなかったら、ほんとにドリンクバーがあるだけのスペースでしたからね(笑)。

磯村 : それだけは俺は絶対に嫌だったからね(笑)!。「頼むからドリンクバーとかは辞めてくれ」ってね。

◇2024年の秋に出店を控えている[cosa]では、主に自然派ワインを提供されるとうかがいました。お話を受けた時は、すぐに「ワインだ」という発想になりましたか?

トヨピー : もともとはじめから「ワインバー」としてお話をいただいたんです。うちはあくまで町工場なので、正直[24PILLARS]の飲食の運営だけで精一杯なんですよ(笑)。飲食ってめちゃめちゃ大変じゃないですか。日々、プロの料理人の方々が人生をかけてやっているものに対して、町工場がホイっとできるもんじゃない。

磯村 : そうですね。今回の[cosa]の話にしても、それ以外の場所にしても飲食で出店していく気はないし、その自信もないんですよね。だから調理するものは出せないけど、注いだり、よそったりするだけの商品だったらやりたいという話をしました。自然派ワインと、それからアイスクリームもやれたらなと思っています。アイスはテイクアウトもやりますが、ワインは店内のみとなります。ワイン一杯から、お子さま連れでアイスだけでも良いですし、とにかく誰でも気軽に寄れるスタンドになれればと思っています。

◇ナチュラルワインとアイス。新鮮な組み合わせですね![cosa]に置くワインは、その季節ごとに仕入れるものがあったりと、ラインナップは流動的なものになるわけですか?

磯村 : そうですね、自然派ワインって量にしても味にしても安定しないんですよ。同じものが毎年一定量できることも絶対ないし、今年おいしかったものが来年もおいしいかは分からないので。その都度セレクトする必要があります。

◇現地で働くスタッフさんはもう決まっていますか?また求める人材像や条件があれば教えてください。

トヨピー : メインの社員さんとメインのアルバイトは静岡在住の方で既に決まっています。それに加えてアルバイトを募集する予定です。働く方に求めることとしては、「二十歳以上」という年齢制限だけ設けていますが、飲食の経験やワインの専門知識は特になくても大丈夫です。ワインを飲むのが好きだったり、人と話すのが好きだったらぜひ![cosa]の上階に入っている静岡デザイン専門学校の学生さんたちにも積極的に関わってもらいたいです。

ワインセラーに並ぶ自然派ワイン。本格派の味が楽しめるガレット。見事な形のカウンターやベンチ。都会的でいて柔和な印象を与えてくれる内装。一見さんでも楽しめるのは間違いないが、トヨピーさんと磯村さんの苦難の連続や試行錯誤のエピソード、そして「手しごと」へのこだわりの話を聞くと、料理や空間に対する感動もひとしおだ。家具の製造においても、ワインのセレクトにおいても、一貫してFace to Faceを重視する彼らの仕事ぶりには学ぶものが多い。

  • 24PILLARS

    オーダーメイドの家具製作を専門に行う[Dala mokko]を母体とするカフェレストラン/ギャラリー/ファクトリー。生産者の存在を身近に感じる自然派ワイン、クラフトビールなどのドリンクや、素材にこだわったガレット、クレープといったラインナップを通して、木工にも共通する「丁寧に作られたモノ」の価値を問いかける。また、食・音楽・アートを交差させたイベントや、木工ワークショップを定期的に開催することで、人の触れ合い、文化発展にも寄与している。

    住所 : 〒460-0022 愛知県名古屋市中区金山3丁目4−16
    営業時間 : ​​ 月・火11:00 – 21:00 / 木・金 11:00 – 23:00 / 土・日 9:00 – 23:00
    定休日 : 水曜日