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In recent times, local cultures and attractions have been rediscovered and appreciated anew. Shizuoka, rich in cultural assets like food and art, holds unique potential.
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FEATURE

Orange moon 常連も一見も、みな平等に満たしもてなす。 bistro caravin

bistro caravin

卓上のメニューはドリンクのみ。フードメニューは?と店内を見渡すと、サラダにフロマージュ、魚介や肉料理、それにパスタ、デザートに至るまで豊富に書き込まれた黒板がカウンターに。静岡市は葵区、鷹匠の[bistro caravin(ビストロキャラバン)](以下 : [caravin])だ。その日仕入れた食材によって流動的にメニューが変わるため、黒板はこまめに書き換えられる。シーズンごと、否、その日ごとに旬な食材を用いるというこだわりの高さで知られ、しかもその全てが彩り豊かで、香り高く、味わい深い。さらに料理に合わせてスタッフが提案するナチュラルワインのペアリングも評判となり、遠方から訪れるファンもいるほど。そんな名店の歴史や流儀に迫るべく、オーナーシェフの小野田 正浩さんにお話を伺った。

徐々に熱を帯びた料理の道。

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◇まずは小野田さんが料理の道に入られたきっかけや[caravin]をオープンするまでのお話をお聞きできますか?

出身は静岡なんですけど、学生時代にオーストラリアに留学をしていました。二十歳くらいの時に帰ってきて、普通に静岡の飲食店にアルバイトとして入ったのが料理の世界との出会いです。料理に興味があるとか、料理人になりたいとかっていう気持ちもなくて、お金を貯めるために入ったという感じだったので、そこまで長く続ける気もなかったんです。ただ、そこで働いていたシェフだったり同僚が料理やお酒に対して熱く向き合う人たちで。そういう人に引っ張られて料理を作るようになったっていうのが最初ですね。そこで一緒に働いていた人たちは、今は、東京や仙台でお店を出してやってる人なんですよ。その人たちに出会ったのはかなり大きいです。

◇はじめは「ただ仕事として」という感じだったんですか!意外なスタートです。

続いちゃったというか、辞めさせてもらえない厳しさがあったんですよね(笑)。でも周りの熱量の高さには影響されましたね。例えばその頃一緒にやってた子で、仙台で[ヒヒヒ]っていうナチュラルワイン界隈では有名なお店をやってる子もいます。まあそれでしばらく働いたあと、東京のレストランにも働きに出て、また静岡に帰ってきて[caravin]を始めたって感じです。

◇改めて静岡に戻ってこられたのは何歳くらいですか?

30くらいかな?兄が実家で和食の居酒屋をやっていたんですけど、人が足りてなくて。僕も帰国してしばらくの間、ちょこっと手伝ったりもしてたんです。

◇ご家族も飲食店を営まれていたんですね。

そうです。もともとは母親がお総菜屋をやっていて、それから兄も居酒屋を始めて。だからなんとなく飲食の世界は身近なものだったかもしれません。でも子どもの頃は、まさか自分も飲食の仕事をするとは思ってなかったです。父は普通に会社員でしたし。だから一番影響を受けたのは、はじめに働いたお店の人たちです。

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◇[caravin]がオープンした頃のお話と、店名の由来についても教えていただきたいです。

静岡で最初に働いた時に一緒だった子と「一緒にお店出そうよ」という話になって、2009年にオープンします。その子がソムリエで、僕がシェフで。だから[caravin]は、最初は二人でやってたんです。そこから2〜3年後にその子が辞めて、お互いにそれぞれの道に進みました。やっぱりお互い家族ができたり環境が変わったりするなかで、考えも変わるじゃないですか。だから店を始めた時から、自然にそうなっていくだろうなとは思ってたんです。「caravin」っていう単語は造語なんですけど、「物を運ぶ隊商」を意味する “caravan”の、最後の“van”を「ワイン」を意味する “vin”に変えています。ちなみにオープンから5年経ったくらいから、今扱ってるようなナチュラルワインのみに絞っていきました。

必要最低限の会話から弾き出す最適解。ナチュラルワインの選び方。

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◇[caravin]でナチュラルワインを扱うようになったきっかけはなんだったんでしょう?

うちで働いてたスタッフが、もともとは東京の飲食店で働いていたんですけど、フレンチレストランとの繋がりもあって。その影響で僕も少しずつナチュラルワインと触れる機会が増えたんですね。徐々に日本のナチュラルワインの生産者とも知り合うようになって、少し手伝ったりもして。そういうところに関わってる人たちって面白いじゃないですか?料理や飲み物だけ、って感じではなく、音楽とかカルチャーも好きで掘っている人が多い。そういう世界だというのを知ってから深みにはまっていきました。

◇確かに、ナチュラルワイン好きな方はカルチャーの面でも凝り性だったりマニアックな方が多いですよね。生産者にしてもインポーターにしてもお店にしても、一人ひとりの輪郭がよりはっきり伝わってくる感じがします。

もちろんワイン本体が重要なんですけど、作ってる人の「こういうのを作りたい」という主張だったり、そこから滲む個性を感じやすいのも楽しいところですね。

◇このインポーターや生産者が魅力的だからこそ取り扱う、という風に、「人」で選ぶこともあるんでしょうか?

ありますあります。もちろんそればっかりではないですけどね。例えばフランスの有名なナチュラルワインの生産者さんってけっこう日本に来ることも多いんです。東京の飲食店なんかに行ってても、「あ、あの人がいる!」ってなって偶然交流が起こったりする。そうやって彼らのパーソナルな面を知っていくと、彼らの作ったものにも興味が出て、より扱いたくなりますよね。

◇ちなみに、普段[caravin]で扱っているナチュラルワインの種類はどれくらいですか?

どうなんだろ。常時変わっていくし、なくなっていくものもあるけど、100種類くらいはあるんじゃないかな。1年で数本しか入手できないものもあるので正確には分からないですが。

◇100種類も!いや、なぜ種類についてお聞きしたかというと、お客さんの好みに合わせてワインを提案するところも[caravin]の大きな特徴ではないかと思ったからです。膨大なラインナップから、必要最低限の会話の中でそのお客さんに合う銘柄を提供されて、しかもそれがバチっとハマるというシーンを何度も目の当たりにしてきたんですが、どういった基準で選ばれているんですか?

ナチュラルワインを選ぶにあたっても、やっぱり“人”を見てる部分はありますよね。よく知ってる人なら、なんとなくの好みを知ってるから、その日の気分をちょっと聞くことで「今日はこういうのを求めてるのかな」って比較的分かります。だから何度も店に来てくれる方は想像がつきやすいですよね。うちはワインリストがないし、お客さんも膨大な中から選ぶのは大変なので、僕が選んで出した方が早いんです。もちろんスタッフができた方が早いし、良いとも思うんですけど、やっぱりそれらを選んで購入した人じゃないとそこまで選べないような気がするんですよ。

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◇通な方には小野田さんが直接対応したりもする訳ですね。

せっかくナチュラルワインが好きで来てくれたら、できるだけその人の好みに寄せてあげたいですからね。でも外れることもありますけどね(笑)。例えば、クラシック寄りのワインが好きな方だなと思ってそういう味わいのものを出した時があったんですが、どうやら還元臭(酸素に触れる前のワインが発する硫黄臭)が強すぎて「これ、ワインの状態大丈夫?」って不安になられたり。だからいまだに難しいです。

◇同じ人でも、その日の気持ちや体調次第で感じ方が変わったりもしますよね。それを考えると改めて非常に難しい技だと思います。

ナチュラルワインで知られたお店なんかだと、それを求めてお客さんが来られることも多いですが、うちは地元の人とか一見さんもいらっしゃるんですね。だからみんながみんなナチュラルワインに詳しいわけではない。そういう場合は、できるだけ会話のなかでその方の好みだったり希望の価格帯を聞いたりしながら、適切なラインを感じ取って出すようにはしています。

◇逆に「こういう味のワインが入ったから、今日はこういうメニューにしよう」と、ナチュラルワインから逆算してその日のフードメニューを考えることもあるんですか?

できたら良いですね。メニュー数もあえて減らして、できるだけ一つずつに対して凝っていったり、その時の季節感を出したりしていきたいですよね。これからやりたいことの一つではあります。

日常の風景に溶け込む。街にひらけた本格ビストロ。

◇先ほど「地元の人とか一見さんも来る」というお話がありましたが、ここも[caravin]の大きな特徴だと思います。本格的なビストロであるにも関わらず、入店しやすく、またお店の方とコミュニケーションも取りやすいと感じるんですが、そういった「街に開けた場所」であることは小野田さんも意識されているんでしょうか?

そうですね。基本は誰でも来てほしいです。だから価格も含め使いやすいようにはしたい。「たまの贅沢」というよりは、日常的に気軽に来てもらえるような。今のところはそうしたいと思っています。もちろんコアな方にもいきたいという気持ちも少しはありますけどね(笑)!

◇「開かれた」という意味では、2024年夏に開催された京都のレバノン料理店[汽[ki:]]とのポップアップのように、他店とのユニークなコラボレーションも注目すべき点です。そういったコラボは積極的に行いたいという考えがあるんでしょうか?

お店同士のコラボもやっぱり良いですよね。どんどんやっていきたいなって思います。その他にも、去年の秋から鷹匠の[サケトバ]の店主と、おでんとナチュラルワインを扱う「オデンボーイZ」っていうのを一緒にやっていて。おでんの出汁のうま味とナチュラルワインが合うんですよ!しかもおでんってお客さんに具材を選んでもらえるし、提供もしやすい。今、割と全国的に「おでん×ナチュラルワイン」の流れはきているみたいです。いつも肌寒くなってくる10月あたりから動き出しています。

◇地元に対しても、県外に対しても開かれている[caravin]の魅力にも繋がりますね!最後に小野田さん目線で静岡の特徴や良さを挙げるとすると、どういったところでしょう?

静岡ってあったかくて、海も山も畑も多いから食材が豊富なんです。だからいろんなお店を食べ歩いてみると楽しいと思います。静岡市は割とコンパクトな街だし、歩いて回れるサイズ感だと思うので、そのなかで自分に合ったお店を見つけてもらえれば良いのかなと。それと食の他にも、木工をはじめ物作りも盛んですし、静岡に来る方々にはそういうところも知ってもらえたら嬉しいです。

[caravin]の店内は、カウンター9席、テーブル約10席。どの席に座っても厨房に立つ小野田さんが見える作りになっている。そんな程よい距離感と小野田さん自身の気さくさも、ついつい立ち寄ってしまう理由の一つ。ちなみに下戸の筆者が恐る恐る相談すると、間髪入れず「長野産の良いりんごジュースがあるんだけどどうです?」と勧めてくれた!そうやって誰でも分け隔てなく満たし、もてなす懐の深さが生み出す空間は、フランス語で「ビストロ」が意味する「誰でも気軽に利用できる小さなレストラン」そのままだ。

bistro caravin
  • bistro caravin

    静岡市鷹匠のビストロ。旬の食材を生かしたフレンチやナチュラルワインを楽しめる静岡屈指の名店でありながら、地域に根ざしたスポットとして親しまれる。また数々のレストランやスタンドとのコラボを通して飽くなき探求を続ける。

    店舗情報
    Open : 17:00
    ディナータイム : 17:00 – 21:30
    バータイム :  21:30 – 23:00
    Close 24:00
    定休日 : 月曜日