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FEATURE

Serene Gleam レバノン料理店[汽[ki:]]の在り方から見えてくる、持続可能型レストランのかたち 汽[ki:]

汽[ki:]
看板メニュー、ミックス(チキンとファラフェル)にピタパンと薪窯でローストしたカリフラワーのスープを添えて
2021年、京都の清水五条でスタートしたレバノン料理店[汽[ki:]](以下、[汽])。プレートの上に彩り豊かに盛られた豆のコロッケ・ファラフェルや、自家栽培の野菜、ハーブ、フムスをピタパンにぎゅっと詰めて味わうファラフェルサンドなど、その洗練されたビジュアルとおいしさから、聞き慣れない「レバノン料理」をたちまち有名にした立役者だ。またヴィーガンフレンドリーなメニュー構成やフードロスへの配慮など、サステナブルな飲食店としても注目を集めている。今回は、オーナーの長野浩丈さんと西川勇作さんに、切っても切れない二人の関係性やお店の成り立ち、「健康的な」店を作るためのこだわり、2024年秋に出店を控える静岡の商業施設[cosa]への展望を聞いた。

飲食一筋、四半世紀!25年来の相棒、長野さんと西川さん

汽[ki:] 右から、オーナーの長野浩丈さんと西川勇作さん。軽妙な掛け合いが共にした年月を物語っていた
右から、オーナーの長野浩丈さんと西川勇作さん。軽妙な掛け合いが共にした年月を物語っていた
◇飲食の世界に入られたのはいつ頃ですか?

長野:僕は子どもの頃からですね。両親が共働きだったので、帰ってきたら自分でご飯作ったりしてました。オカンの料理が好きで教えてもらいながら、ずっとやってましたね。知り合いのお父さんがホテルの料理長で、中3の終わりくらいからそこの洗い物をさせてもらったり。料理人になろうとしてなった感じではなくて、料理がナチュラルに生活のなかにありました。そこからもうずっと、フレンチの世界にい続けて今に至るって感じですね。
汽[ki:] オーナーの長野浩丈さん
西川:エピソードかっこいいすね。

全員:(笑)

◇西川さんはいかがですか?

西川:僕は父親がホテルの料理長だったんです。うちも両親が共働きだったので、父親には餃子の焼き方から教えてもらって。親が帰ってこない時は簡単な料理……チャーハンとかを作ってみたりとか。おいしくなかったですけどね。高校の時にめっちゃかわいい女子の先輩が、近所の[餃子の王将]でバイトしてたので、働きたいなと思って。で、そこの店長がちゃんとした四川料理の勉強をしてきた方で、その人にかわいがってもらって料理も教えてもらいました。2年くらい働いて「社員になってほしい」とも言われたんですけど「それやったら自分が思うトップの場所でやりたいな」と思って。その当時、ホテルのレストランってやっぱりすごいというイメージがあったので。
汽[ki:] 西川勇作さん
長野:僕らが10代だった90年代は、ホテルってやっぱり料理業界ではトップの存在だったんです。ちょうど町場のフランス料理屋が出始めたころだったんですが、それでもホテルが権威でしたね。

西川:でもホテルの中華レストランがめちゃめちゃ暇で。それから同世代が全然いなくて、僕はもう同年代の料理人がいれば何料理でも良いからと思って、業者さんに紹介してもらったところが、長野さんが最初に働いてたカリフォルニアキュイジーヌの店だったんです。

◇偶然だったんですね。でもそこから一緒にお店をやるようになるということは、意気投合した部分があったんですよね。

長野:特になかったですね(笑)。ただ、酒を飲みに行くときだけは絶対一緒でした。料理の話とかもしなかったですけどね。

◇そのオフの時の空気感が合っていたんでしょうね。ちなみにお二人は出会って何年くらいですか?

長野:25年くらい。

西川:19の時に出会ったんで。

長野:一緒に働くようになってからは酒ばっかり飲んでました。

◇まさか一緒にお店を出すことになるとは。初の出店が大阪・北新地のフランス料理店でしょうか?

長野:その店、実は初めは西川とは一緒にやる予定ではなかったんですよ。僕と弟ともう一人、ソムリエの3人で始めるつもりで。でも年末にそのソムリエの家族に不幸ごとが起きて入れなくなってしまって。ちなみに僕はそれまでずっと出張料理をやってたんです。その時に彼が働いてたレストランに出張して厨房を使わせてもらったことがあったりと、関係は続いてました。

西川:当時自分もレストランを辞めたタイミングやったんですけど、長野さんがお店出すって聞いて店の様子を見に行ったんです。で、気づいたら一緒に掃除機とか買いにヨドバシカメラに行くことになって。今でも覚えてますわ。12月25日におっさん2人で電気屋に買い物行くっていう(笑)。店戻ったら、弟の方が「ほなこの3人で店、頑張っていこか」って言い出して。そこからやることになりました。

◇すごい成り行きですね(笑)。

長野:自分は彼がレストラン辞めたって聞いた時にはもう一緒にやろうと思ってましたね。それが2016年のことです。そこで4年くらいやってコロナ禍が始まって閉店したので。で、[汽]を始めたのが2021年かな。

料理人としてのネクストステージ。「健康的なレストラン市場」を目指して

汽[ki:]
1階が[汽]。2階には、長野さんのもう一人の弟さんが運営するタトゥースタジオが入居する
◇ではここから、[汽]のことについて詳しく伺っていきたいと思います。オープンのきっかけは何だったんでしょう?

長野:北新地の店はやっぱり土地柄、客単価が3万くらいする高めの値段設定になるじゃないですか。自分の近しい人や友人を誘えないというのが虚しいと思い始めて。実家を改装して面白いことできひんかなという話をするようになったタイミングで、レバニーズに着目しました。海外いろんなところに行ってきたんですが、レバノン料理っていろんな国にあるんですよ。やはり内戦も多い地域なので、人も散っていってるんですね。ヨーロッパにもあるし、アメリカにもあるし、それこそタイやベトナムなどアジア圏にもあるし。フランスでもマレとか多いですよね。あのあたりのかっこいい地域にレバニーズが多いです。あとは野菜中心なところも魅力ですね。僕らもちょうど10年くらい前から無農薬野菜の畑をやり始めて。
汽[ki:] オーナーの長野浩丈さん
◇[汽]を始める前から畑はされていたんですね。

長野:そうなんですよ。大阪の時からやり始めていました。畑は、今は京都の西の方の洛西という地域にあります。大原野というところ。

◇HPにある長野さんの「健康的なレストラン市場」についての言葉が印象的でした。「無理を取り除いた生産と流通、料理とサービスが、カジュアルなお店でも感動的な食事体験として提供できる」という思いに至るきっかけはありましたか?

長野:きっかけというよりもずっと続けていく中で思ったことですね。24歳くらいで料理長になったので、レストラン市場を見ている期間が長いんですよ。なんかこう、やり続けながら薄ーく思い続けてるんですよね。労働時間も長いし、食品ロスもめちゃくちゃ多いし。僕らがやってたフランス料理って、本当に良いものの良いところしか使わないというような形で、それって果たして正しいのかなってずっと疑問にはあったけれど、それが当たり前というような。そこに入ってやっている時はそれがかっこいいと思ってましたが、「違うなあ」という思いもどこかにありました。僕もやし彼(西川さん)もやし。

◇本来なら捨てるはずの野菜の切れ端なども炭にしてピタパンに練り込むことでロスを減らしていると伺ったんですが、その手法もフレンチもしくはレバノンならではのものなんですか?

長野:いや、それはゴミが多すぎてシンプルにやってみたというだけです。それまでロスがすごかったんですよ。山のようにゴミがあって、何かできないかなと考えてて。うちは薪とか炭で調理していて、炭とか薪って調理したあとも煌々と残ってるじゃないですか。やったらその熱使えないかなと思って、朝食に出しているスモークチキンが生まれたり、野菜の炭が生まれたりして。それで「きちんと循環してるんだよ」というアピールもお客さんにできますしね。黒いパンを出したらお客さんは絶対気になって質問してくるじゃないですか。その時にその経緯を説明すると、納得してその方法に賛同してもらえるんです。

◇それからこの大きな机も「お客さんがひと所で向かい合って食べてもらう」という思いからとのことで、テーブル上にあしらわれている植物は季節によって変わると聞きました。どういったこだわりが?

長野:今飾ってるのは、ヒカゲノカズラという山によく生えてるやつですね。「山のおじさん」がいるんですよ。野草ばっかり集めてる人。森とか林にあるものを持って来てくれるので、僕らがそれを見繕って飾ります。その人は僕がフランス料理やってる頃からの付き合いで、有名な野草とりの人なんです。装飾を専門にしてる人ではなく、ただ森に入って食べられるものを獲ってくる。[cosa]でもそういう面白いことはしたいですね。
汽[ki:]
◇店内の奥に飾っている写真もかっこいいですね。どなたの写真ですか?

長野:これは、朝にコーヒーとカヌレを食べによく来てくれる、フレデリックっていうフランス人がいるんですけど。うちの近くの住居兼ギャラリーで個展をしたりしているフォトグラファーなんです。ある日、「僕の写真をここに飾ったらかっこいい気がする」って言って、(店内の写真を指しながら)これとこれを壁にいきなり取り付けて。

西川:最初こっち(店舗奥の写真)だけだったんですけど、気づいたらそっち(カウンター横の写真)も増えてて。
汽[ki:] 奥に見えるのが、フレデリックが撮影した作品
奥に見えるのが、フレデリックが撮影した作品
◇でも空間にマッチしていますよね。でもそうやって受容する器の大きさというか、寛容性も良いですね。

長野:だから自分で店を作ってる感覚はまったくないですね。空間や料理も勝手にいろんなところから集まってきて。レバノン料理のプレートもそうですけど。初めは違うことやってたんですよ。ピタパンの中に全て入れて出してたんですけど、知り合いのお客さんが「せっかくこんなにおいしいんだったらプレートに並べた方が綺麗じゃない?」って言ってくれて。すぐプレートに並べ替えたり。だから何も自分で作ってないです。勝手に作られていくんですね。

◇「出来上がっていってる」感じですよね。またこれからも変わっていくかもしれないですね。

長野:変わっていくと思います。今よりも良い方があったら変わっていこうと思ってるんで。

働き方も健やかに。京都の店の空気感を静岡にも

◇モーニングもランチもディナーもされて、さらに野菜も作ってと、凄まじい仕事量だと思うのですが、一日のルーティンを教えてください。

長野:まず畑の方は完全に僕の父と母に任せています。たまに僕らが採りに行ったりとか、土を起こしたりとか。お店の方は、まあシンプルに朝、昼、晩とやっています。朝は5時くらいに起きて。休みの日も5時に起きてますね。店に出勤するのはオープンする8時の数分前とかですね。店のすぐ近くに住んでるので。

西川:自分は午前7時くらいに出勤ですかね。8時前にはちゃんと酒飲んでます。1時間に1回くらいは酒飲んでます。

長野:ちゃんと休憩しながらやってますよ。朝やって、1時間休憩あって、昼を15:30くらいまでやって、そこからご飯食べに行ったりしてまた18:00からスタートです。それもちゃんと無理のないように回していくことも考えながらですね。例えば今、モーニングは彼(取材現場にいたスタッフのコウタさん)がほとんどやってくれているので。そういう風に朝食とかランチを回せたら、僕らは昼から来てディナーに集中できたりするので。そしたら毎日夜も開けられるじゃないですか。やっぱり僕は店の休みがあったり、席が空いてたりしてお客さんに料理を提供できないってことが誰も幸せにならないことだと思っているんです。なのでちゃんとたくさんのスタッフが集まって、365日24時間やれるようにしたい。

◇今はスタッフさんは何人くらいいらっしゃるんですか?

長野:社員3名と、アルバイト8〜9名です。アルバイトはみんなもともとコーヒー屋さんで働いていた人ですね。

◇では皆さん料理経験がないところから働かれているわけですね。

長野:そうです。でも例えば彼(コウタさん)は料理好きでもあるし、自分でスパイスカレー作ってイベントで出店したりしています。ちなみに、カフェで働いてる人たちを雇うのは作戦としてやってます。コーヒー屋って「こういうところができてるみたい」みたいな店舗の情報もすぐ届いたり、とにかく情報が集まる場所ですし、拡散される場所なので。

◇cosaでのリクルートの話なのですが、どういった方に働いてほしい、といった理想のスタッフ像はありますか?

西川:元気な人です。やっぱり人当たりが良い方が損しないじゃないですか。あとはありきたりですけど、食べるのが好きな人。

長野:技術的なところでいうと、すごい量の味見が必要なところです。ほとんどは感覚じゃない部分で作ってるんですけど、野菜ってものによって違うんです。お菓子作りだったら砂糖や小麦粉が何g……と量ってできるんですけど、野菜は届いた時の状態次第で「今回は少し糖分減らそうか」とか「酸味少しつけようか」っていう風に調節して味を完成させていくので。なかなかキャベツ何gに対して塩が何gみたいな作り方にはできないんです。そこはもう経験がないと難しい。
汽[ki:]
◇そういった感覚を掴めそうな方が向いているのかもしれないですね。

長野:まあ料理が好きな人が向いていると思いますね。料理が好きでサービスが好きな人。仕事とかじゃなくてもともと人に喜んでもらうのが好きな人だったら。うちの店はやっぱり客単価が高いフランス料理などと違って客数も多いから、たくさんの方と会えるっていうメリットもあると思います。フランス料理だとだいたい昼15人、夜15人のお客さんを相手にするわけじゃないですか。ここだったら一日100人くらいのお客さんにサービスするので、お客さんから与えられる刺激も多くて面白いですね。

◇私も以前ヴィーガンの友達と食べに来たことがあるんですけど、スタッフの皆さんがとても楽しそうなのが印象的でした。

長野:あ、そうですか!

◇それこそヴィーガンの方を含め、いろんな価値観、宗教、国籍の方が来れるようにというのがコンセプトだと伺いました。そういった細かいオーダーにも対応されているんですか?

長野:めちゃくちゃあります。日々それをやってます。例えばキュウリは食べられないとか、乳製品ダメとか。いろんな方がいるので、誰でも対応していきたいですし、対応できるようなシステムにしているので。プレートで「これが使えなかったらこれにしようか」とか、細かくやってます。唯一、ハラル(編集注:イスラム教で「合法」の意。食事の製造過程にも細かい規定があり、「ハラル認証」を受けた店だけで食事をするムスリムも多い)だけは難しいですね。ハラルの肉を使っているんですけど、厨房はハラルの認証を取れなかったんです。でもそれ以外は対応しています。

◇cosaの店舗ではどんなメニューを考えられていますか?

長野:とりあえずは今、ランチで出しているメニューを軸にしようと思っています。朝は朝のメニュー。昼と夜は今、[汽]のランチでやってるメニューをやろうと思っています。そこからですかね。まずはプレートを知ってもらって、徐々にいろんな要望を聞いたりしながら、[汽]で出してるものを出していって、最終的にはアルコールとかと一緒に一品料理もやれたら面白いなと思います。
汽[ki:] デザートのローステッドバナナ
 デザートのローステッドバナナ。[cosa]でお目にかかれる日が来るかも?
“レバノン料理” というニッチなカテゴリにもかかわらず、長野さん、西川さんらスタッフのみなさんは、驚くほど軽やかで朗らか、そして健やか。有機野菜の使用やフードロスの削減、ヴィーガン対応、スタッフの働き方など、店づくりの根底には、無理なく循環する持続可能なシステムがあった。まずはそのおいしさに魅せられ、次にその姿勢に感動すること必至の良店、[汽]。静岡[cosa]での飛躍にもご期待あれ!
  • 汽[ki:]

    住所:〒600-8111 京都府京都市下京区都市町149
    営業時間:
    ■日 – 火曜日
    BREAKFAST : 8:00-9:45 LO 10:30CLO
    LUNCH : 11:00-14:45LO 15:30CLO
    ■木 – 土曜日
    BREAKFAST : 8:00-9:45 LO 10:30CLO
    LUNCH : 11:00-14:45LO 15:30CLO
    DINNER : 18:00-20:00LO 22CLO
    定休日:水曜日
    電話番号:075-585-4224