Unlikely Synergy 和・洋・中...…唐揚げという技法を通して越境する プレフリトーキョー

2024年夏に渋谷駅直結の商業施設[Shibuya Sakura Stage]のフードホールにオープンした唐揚げ専門店[プレフリトーキョー](以下[プレフリ])。本格派ながら親しみやすく、毎日でも食べたくなるメニューが人気を博し、オープンからわずか数ヶ月にして静岡[cosa]への進出が決定。オーナーとして舵を取るのは、ポップアップストアのプロデュースを行う「株式会社THE・STANDARD」や、社員食堂や社内カフェのプロデュースを専門とする「株式会社WORKING FOODIE」の代表を務める町田 智昭(ともあき)さん。そしてメニュー開発を担ったのは、フレンチレストラン[MAISON CINQUANTECINQ ]や、うつわギャラリー[AELU]、そして居酒屋[LANTERNE]など、都内の人気店をプロデュースするシェフ、丸山 智博(ちひろ)さん。経営と現場、二つの側面を知るお二人に話を伺うべく、代々木上原の[LANTERNE]にお邪魔した。

日本の飲食を盛り上げる。異なるタイプがタッグを組んで生む相乗効果。
◇よろしくお願いします。まずはお一人ずつ、生年月日、出身地、それから昨日の晩ご飯を教えていただけますか?
町田 : 生年月日は、1986年9月22日、出身は埼玉。昨日の夜は……何食べたっけな。あ、めっちゃ良いもの食べてました。松葉ガニです。外食で、たまたまね。普段からそんな良いもの食べてないですが(笑)。
丸山 : 1981年1月21日生まれで、出身は長野県です。昨日はお店に立ってたので晩ご飯食べずでしたね。でもお店に立つと、味見をいっぱいするので常に満腹ではあります。
◇次に平均的な1日のルーティンを教えてください。
町田 : 2人子どもがいて、下の子が8ヶ月なんですけど、5時くらいにはニコニコして起きてるんですよ(笑)。なので、それに合わせて起きてます。上の子を保育園に連れていくのが8時半過ぎで、そこから出社するか、クライアントのところに直で行くか、みたいな流れです。日中は店舗に顔を出すことも多いんですけど、基本的には常に新しく1年後、2年後の企画の話が出てきているので、その打ち合わせとか作業をしてたら、だいたい19時くらい。20時くらいには家に帰って家族で晩ご飯を食べて、夜は23時くらいには寝ます。
丸山 : 起きる時間はだいたい7:30くらい。でも1日の流れは日によってバラバラです。お店に入ってるのが週に2日か3日くらいあるんですけど、そういう日はお店の動きが中心です。営業が夕方から始まる時にお店に行くんですが、その前は社内ミーティングをしたり、自分の店の試作をしたり、クライアントのメニュー開発をしたり、外行って打ち合わせしたりと、毎日バラバラです。寝る時間はだいたい深夜1時か2時くらいです。
◇主に行われていることと、現在の職業を志したきっかけを教えてください。

町田 : もともとカフェで働いていて、ひたすらカフェラテとかコーヒーを作って提供していました。そこから、紹介だったり人のご縁もあって、他のお店やイベントのプロデュースをやらせてもらうようになりました。「ポップアップショップ」みたいなのがそこまでメジャーじゃなかった頃に、それを専門にプロデュースする「株式会社THE STANDARD」を設立して、次に社内カフェとか社員食堂をメインに打ち出している「株式会社WORKING FOODIE」を立ち上げました。大手の給食会社だと手が届かないような細やかなところを可能にすることを1つのビジネスモデルとして拡大させているところです。
◇「大手では手が届かない細やかなところ」とは、具体的にどういった部分でしょうか?
町田 : 例えば今僕らが一緒にお仕事させてもらってるのが、お肉などの食材を輸入している商社さんなんですが、大手の会社だとトレーサビリティ(注 : 製品の原材料の調達から生産、消費、廃棄までの履歴を追跡できる状態にすること)の都合上、希少な食材を段ボール数箱単位で納入したりすることが難しいんですが、僕らはそういうものでも仕入れて加工して提供することができます。これはうちならではの強みだと思いますし、実際に求められることも多くて。「何かを志します!」という感じではなく、需要に合わせてビジネスモデルを変化させている感覚ですが、とにかく目の前のお客さんの為に細やかに対応しようとしています。

丸山 : 自分は、大学は今の仕事とは関係のない理系の学部に通っていました。あるあるではありますが、居酒屋でバイトしているうちに、料理が楽しくなっていったって感じです。就活もせず、バンドでトロンボーンをやったりしてて。
町田 : え、バンドやってたんすか!知らなかった。
丸山 : そうなんです。卒業後の進路として「自分の好きなことってなんだろう」と考えた時に、カフェに行くことと料理することが好きだったので、「いつか自分のお店を持ちたいな」って思って1年だけ料理学校に行きました。そこのベースがフランス料理で、担任の方もフレンチメインの人だったので、修業先として青山のフレンチレストランを紹介してもらって。そこからずっと料理を続けてきて、2010年にビストロを開業したという流れです。あとは店を始める前からケータリングにも取り組んでいました。当時、イベントなどでお客さんをフードでもてなすというのが始まった頃だったんですが、まだまだニッチな分野だったのでやってみたんです。はじめはアパレル業の友達の展示会で料理を出させてもらったりして、徐々に大きいイベントなどにも出すようになっていきました。それからここ数年は、いろんな和食の居酒屋やカフェのプロデュースなど、フレンチをベースにしつつ、あまりジャンルは絞らずやってるのが特徴です。
◇丸山さんが手掛けられたレストランや居酒屋からは、ブランドとしての統一感を感じます。
丸山 : ありがとうございます。最初の頃は全部自分というか社内でメニュー開発してたんですけど、最近他ジャンルのディレクションで関わるときは、うちから専門的なシェフに依頼したりとか、ハブになるような動きにも力を入れています。メニュー開発をしたいシェフは多いんですが、独立しちゃうと店の運営が軸になって少し窮屈になってしまう可能性があるんです。そこで、僕らが現場と料理人との間に入って繋げていくことで、みんながやりたいことができて、きちんとお金も稼げる状態を作ろうとしています。
◇お二人とも、人と人の間に入って動くという点で共通するものがありますね。お二人の出会いから、[プレフリ]オープンまでの経緯を教えていただけますか?
町田 : 初めましては2024年の2月くらいです。もともと、[Shibuya Sakura Stage]の商業エリアをプロデュースしている小川さんから、丸山さんに出店のオファーをしていたみたいで。
丸山 : 2年前くらいから「お店、出しませんか?」と話をもらっていました。ただ僕が運営をするのは難しかったので「良いパートナーさんがいたら良いですね」という話をしてて。少し経って小川さんから「良い人が見つかりました!」と、町田さんを紹介してもらったんです。
町田 : 僕は僕で小川さんと10年くらいの付き合いなんですが、少し前に「唐揚げと点心に特化した店の企画があるんだけどやらないか」と相談を受けて。丸山さんの名前も伺って、「じゃあ丸山さんのお店に行ってみよう」となったのが今年の2月くらい。そこで[Lanterne はなれ]に行かせてもらったんですが、そこの料理が全部めちゃめちゃおいしくて。ねぎま唐揚げとかね。
◇ねぎま唐揚げですか!珍しい。
町田 : ストイックに唐揚げのことを考えているのが分かって、改めて、丸山さんに[プレフリ]のメニュー開発をお願いすることにしました。それが2024年の2、3月くらいですね。そこから時間もないなかメニューをいろいろ考えてくださってなんとかオープンにたどり着いた、というのが2024年の上半期でした。ぎゅっとしてましたね。
◇出会いから[プレフリ]オープンまで割とトントン拍子だったわけですが、初対面のイメージはいかがでしたか?
町田 : 丸山さんはメディアでもたくさん取り上げられている有名な料理人ですし、僕も、丸山さんがやってることを知らずに[Lanterne]に食べに行ったりしてたんですよ。だから「あ、あのお店、丸山さんが!」という感じで。あとうちの従業員も、もともと丸山さんのもとで働いていた人もいたりして。だから会った時にそこまで違和感もなく「大丈夫だ」って思いました。
丸山 : 町田さんが最初にお店に来られた時はそこまで深く話もできなかったんですが、その後ちゃんと打ち合わせでお会いした時に、町田さんの会社がやっていることも聞いて「面白い!」って思いました。自分、普段はけっこう迷うというか慎重なタイプなんですけど、仕事に対して真摯な町田さんと話すうちに「一緒にやれそうだな」と思いました。うちは、いろいろと慎重になってた時期で人集めとかにも苦労してたんですが、町田さんは割とそういったあたりも得意だし、僕たちにはないノウハウを持っていたんで、[プレフリ]以外のことでも単純に学びがあります。個々にストロングポイントを持った2社が一緒にやると相乗効果があるだろうなと思って。

町田 : ありがとうございます!
丸山 : あと町田さんは、飲食未経験の人も採用したりと「みんなにチャンスを与える人」というイメージがあります。僕は古い考えかもしれませんが、「ネイルばっちりやってる子は、飲食店のスタッフとしてはちょっと」って思ったりするんですけど、そこをNGにしちゃうと来てくれるスタッフの層も狭まっちゃいますよね。それに対して、人を選びすぎないのが町田さんのすごいところです。
町田 : 僕自身が飲食のど真ん中を通ってきてないし、誰かの下について教わってきたわけでもないので、他から見ると「感覚が違う」と思われるところもあると思います。でも自分がたずさわるお店は “プロフェッショナルすぎない集団”にしたいので、採用に関するハードルも高く設定しすぎないようにしています。髪を染めてて長いんだったら結んでもらったり、ネイルしてる子は調理する時はゴム手袋をつけてもらったり。そういった対策のもと緩和していくようにしています。
世界を見据えたメニュー作り。静岡に新たな風を。
◇満を持して2024年7月にオープンした[プレフリ]ですが、特徴や強みはどういったところでしょう?
丸山 : やはり唐揚げ専門なので、いろんな唐揚げのバリエーションを楽しんでもらえるのが特徴です。和、洋など、いろんなジャンルの要素を取り入れています。


◇編集部も取材前にいただきましたが本当においしかったです!ムネ肉とモモ肉を選べるのも興味深いです。
丸山 : ムネ肉をやりたいと思った理由は明確にあって。ゆくゆくは[プレフリ]を海外にも出したいなと思っているんですが、フランスでは鶏ムネ肉をいっぱい食べるんですよ。フランス人にとっては「鶏肉=ムネ肉」なんです。だから海外にも目を向けるなら胸肉もやった方が良いなと思って。とはいえ、いろんな部位のおいしさを表現したいので、[プレフリ]というブランドのなかでは、モモも胸もやるし、手羽もやります。鶏を余すことなく唐揚げという技法でおいしく調理して提供したいなと思っています。

◇はじめに「唐揚げと点心というお題があった」とありましたが、それは商業施設側からの依頼なんでしょうか?
町田 : そうですね。商業施設のプロデューサーが「ここはクラフトビール屋、ここはピザ、ここは牡蠣……」とジャンルを提案して振り分けていくなかで、やはり「ビールに合う料理として唐揚げと中華は欠かせないよね」という話にもなって、そこに僕が「やります」って手を挙げちゃったという流れです。
◇「挙げちゃった」んですね(笑)。いずれも経営者的な目線で店舗プロデュースを行われているお二人ですが、理想的な飲食店の姿や在り方はどんなところだと思われますか?
丸山 : スタッフにしてもお客さんにしても、年齢とか性別とか国籍とかあまり偏ってない状態がお店として長く続けられる秘訣じゃないかなと思ってます。ある程度「こういう層にアプローチしたい」という狙いはどこもあると思うんですけど、例えば新しいものが好きな女性をターゲットにすると、流行に敏感だからこそ離れるのも早かったりするし、男性のお客さんからすると女性ばかりいるお店だと行きづらく感じる。もちろんターゲットを絞ってお店を盛り上げることも必要ですが、それを続けすぎず、ある程度開けた店づくりをしていかないと、旬が短いだけのお店になっちゃうんです。例えばここ[LANTERNE]は、女性が一人でも来やすいようにと、見た目が華やかなメニューの開発も行っていたんですが、その結果、若い女性のお客さんが9割くらいになった時期もあって。


町田 : たしかに。少し前にお店を覗いたら、女の子めっちゃ来てましたね。
丸山 : そうそう。嬉しい反面、男性の知り合いからは「少し行きづらいかも」と言われたこともあってね。最近は若い女性にもフィットしつつ、お酒が好きな男性や、普段こういうところに来ない層も滞在しやすいよう接客していくとか、地道にやっています。同じ額の売り上げでも、どれだけ自分たちの理想に近い営業かという中身が重要だと思います。
町田 : 僕は違うベクトルではありますが、「スタッフがちゃんと稼げるお店」がこれからの飲食にとってすごい重要だと思います。
丸山 : めっちゃ大事だね。
町田 : 飲食業って参入しやすい一方で、やっぱり「安定しないし大変そう」って印象があるみたいで。飲食業界で働きたいっていう人が増えるように、環境とか待遇面を意識したいと思っていて。それこそ社員食堂で働くような、いわゆる給食室のおじさんおばさん的な世代の方々も、一流企業の社員くらい稼げるような環境を整えていくことで飲食全体がもっと盛り上がっていくと思います。海外から見た時に、日本の食ってコンテンツとして強いので、まだまだ可能性があると思ってて。ちゃんとサービスに対しての単価を取っていけたら、日本の飲食は盛り上がっていくと思います。
◇[プレフリ]、地方出店ということで新たな挑戦かもしれません。静岡に合わせた何か構想はありますでしょうか?
町田 : まずは東京でやってることを基本的な軸としてそのままやってみながら、ゆくゆくは静岡に合わせたものもやってみたいですね。ランチは唐揚げオーバーライスとか、チキン南蛮を定食として出しながら、夜はお酒片手に唐揚げをつまんでもらえるような感じで来てもらえたらと思っています。静岡は地場産業が強いエリアでもあるので、東京から行く僕らが受け入れてもらえるか……という心配もありますが、うまく地域性と混ざって静岡の方たちに喜んでもらえるものを作っていきたいです。
フレンチでの修行を通して育んだ確かな知見と技術を生かし、唐揚げという身近な料理を贅沢なひとときに変える丸山さん。そして日本の食の可能性を見つめ、発信し、飲食業界に還元しようとする町田さん。タイプは異なれど、「食」を通して社会を活性化させんとする二人のMr.仕事人の情熱を見た。そんな彼らが作り出す[プレフリ]が、2025年1月に、静岡[cosa]フードホールに降り立つ。東京発の飲食ブランドと静岡の地域性は、どんな相乗効果を生むのだろう。新たな風が吹こうとしている。
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2024年夏、[Shibuya Sakura Stage]のフードホールにオープンしたビストロスタイルの唐揚げ専門店。[MAISON CINQUANTECINQ],[LANTERNE],[AELU]といった人気店を手掛ける料理人、丸⼭智博が監修を務めたメニューの数々は、部位も味付けもバリエーション豊かで味わい深く、唐揚げという親しみやすい料理を通して、訪れた人を非日常へといざなう。
店舗情報
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町1-4 SHIBUYA SAKURASTAGE 4F
営業時間:11:00 – 23:00